相手のショットに対応する「反応」
今回の記事では、テニスの試合中に、”相手のショットに対応する力”を向上させるために不可欠な、”反応”の大切さについて説明をしたいと思います。
・反応とは
通常テニスでの反応とは、相手のショットに対しての初動対応のことを指します。
反応が良いという場合は、相手のショットに対するスタートが速いとか、ボレーなどで相手のショットに対するラケットセットが速いことなどを示しています。
また、反応が正確というのは、例えばボレーなどの際、相手のショットの軌道に対してラケットをセットする場所が正確であることなどを言います。
・反応は2種類ある
テニスでの反応には、二通りのなされ方があります。
ひとつは、自分の判断によって行なわれるもの。
もうひとつは、熟練した動作によって判断を介さずに反射的や自動的に行なわれるものです。
人間の行動は筋肉が動くことによって行なわれます。
この筋肉は、脳からの微弱な電気信号によって動きます。
従って、どちらの反応も脳からの指令であることには違いがないのですが、実は、二つの反応に対して、指令を下す脳の部位が違うことが明らかになっています。
前者のように判断を下に動作するものは、脳の中の大脳と呼ばれる部位からの指令に対し、後者のほうは小脳と呼ばれる部位で指令が出されます。
大脳は主に、行動の効率化など、”運動を考えてコントロール”して行なう際に使われる部位で、それに対し小脳は、”自動的に行なわれる”動作を管理する部位です。
例えば、”もう少しテークバックを小さくしてみよう”などと考えて行動することは大脳を経由した運動であるのに対し、走る際に、”右足と左足を交互に出して...”などといった、考えず自動的に動けるものは小脳の働きによるものです。
熟練した動作に対しては、いちいち考えなくても行動できるように、時間を短縮する回路が私達に備わっているということです。
判断を介して行われる大脳を経由した反応は、認知して判断して行動するといった流れで行われます。
これは、判断をするための時間が必要になりますから、判断自体が遅れれば行動を始めることも遅くなります。
それに対して、判断を介さない小脳による反応は自動的に行われるもので、認知後直接行動をとることになります。
これは、判断をする時間が必要ないわけですから、認知後すぐに動き出すことができ、反応時間を大幅に縮めることができます。
一流の指導者は”考える”のではなく、”感じる”ことが大切だといいます。
これは、この反応に対する時間を減少させるために非常に大切なことです。
しかし、感じて動けるようになるためには、相当の経験と訓練が必要なのは言うまでもありません。
また、誤解をしないようにしていただきたいのですが、自動的に行なわれていることとは、いわゆる”癖”ということです。
走るフォームひとつにしても、人それぞれ違っています。
そのフォームをより理想的なものへ近づけるためには、まずは大脳を介してよく考えて、身体(小脳)に覚えこませることが大切です。
これを覚えるまでは”考える”ことが何よりも大切です。
ここで、良くない癖を身につけてしまうと、常にその悪い癖が自動的に行なわれることになりますから注意してください。
・反応は速度と正確さが大切だ
テニスでの反応において大切なことは、その速さです。
反応が遅れてしまえば、打ち返せるはずのボールも打ち返せなくなります。
例えば相手のショットが時速100kmを超える速さで飛ぶ場合、およそ0.1秒の間にそのボールは3mほど進むことになります。
平均的な視覚による認知においての反応速度は0.2秒程度です。
聴覚についてはもう少し反応速度が速くなりますが、ピストルの音とともにスタートを切る陸上競技ではスタートの合図後0.1秒以下でスタートを切った選手はフライングとされます。
つまり現在は0.1秒以下で反応をすることは人間には不可能と考えられているということです。
従って、一流の陸上選手と同じぐらいのタイミングで反応したとしても、相手のボールは3mほどこちらに向かって来てしまっているということです。
もちろん平均的な0.2秒の反応速度であれば、空気抵抗などのショットの減速率を考えなければ、この間に6mほどi移動してしまっていることになります。
テニスコートの縦の長さはおよそ24mです。
横の長さは10mを少し欠ける程度です。
一流のスポーツ選手の10m走の記録目安は1.7から2秒くらいです。
従って、0.1秒で3m進むボールが24m先に到達するには0.8秒かかり、テニスコートの真ん中から端までの約5mを走るには0.8秒以上かかるということになります。
実際には、ボールの速度は空気抵抗などにより減速しますし、バウンドによっても減速しますからこのように単純な話ではありませんが、反応が遅れれば守備することなど無理なことが良く理解できると思います。
また、反応の正確さも非常に大切です。
これは判断にもよるところだと思いますが、反応して走り出したつもりが逆方向だったり、ラケットのセットを間違えたりでは、いくら反応が速くとも意味がありません。
・反応は独立しているものではない。
実際の反応は、予測と判断に密接に関係しています。
反応をするタイミングを相手のスイング中のどこに対して行なうのかは選ぶことができます。
例えば、相手がボールを打つ直前に相手のラケットセットの場所からそのショットを予測できて、そのショットを判断できたとすれば、相手の打点を待たず、それに対して反応しても良いわけです。
しかし、なかなか予測ができずに判断がつかなければ、実際にショットが打たれてから判断することになりますから当然反応も遅れてしまいます。
そして、予測していたショットと違うショットが飛んできた場合なども判断の訂正を余儀なくされますから、反応もその分遅れるでしょう。
しかし、予測ができなかったとしても、いわゆる山勘で相手からの仮想のショットを想定し、それに対して反応しても良いわけで、ポーチボレーなどはこれに当てはまるかもしれません。
・判断のタイミングを早くすること
判断のタイミングを早くすることが、判断を必要とする場面での反応のタイミングを早くするためには不可欠です。
0.1秒の判断の遅れが致命的になる可能性があります。
そして、そのためには予測が的確にできるようになること、また、いつまでも悩むことなくさっさと判断してしまうことが大切です。
・反射的な動きの精度を上げることが大切だ
そして、より多くの場面で、自動的に反応できるように訓練をすることも大切です。
これは、熟練することで大脳を通さずに反応することにつながります。
守備力の向上のためには絶対的に必要な条件です。
そして、これは経験と訓練によってのみ向上するものです。
”感じて動く”ことができるようになるまで反応の訓練を積まなければいけません。
車の運転などでは、人は危険を認知して、判断して、操作をするまでにおよそ1秒かかるといわれています。
これをテニスに置き換えてみれば、反応のために1秒の時間をかけているようでは、もちろん相手のボールが速ければ触ることすらできないでしょう。
プロ選手がエースを狙って打ってくるボールのスピードは時速150kmと言われています。
これは1秒で40m程進むことになります。
もちろん、前述のように空気抵抗などがありますから、単純にこの数値通りとはいきませんが、縦の長さ約24mのテニスコートを守るためには、1秒の反応速度では不可能です。
しかし、テニスの場合でも、予測が適正に行なわれ、その動作に熟練してくることで反応時間を短縮することは可能です。
これは、日頃の練習中から、一球ごとに予測をしてから行動する習慣を身につけることと、緊張感を持ってすばやく反応する訓練を怠らないことが大切です。
日々の積み重ねが相手のショットに対応する力を養ってくれます。
次回は、”相手のショットに対応する力”を向上させるために必要な、”スタート”について説明をしたいと思います。
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